\({x}^{3}=1\) の \(x=1\) 以外の解の1つを \(\omega\) とおくと、以下の関係が得られる。
(\(\bar{\alpha}\) は、\(\alpha\) の共役複素数)
- \({\omega}^{3}=1\)
- \({\omega}^{2}+\omega+1=0\)
- \({\omega}^{2}=\bar{\omega}=\frac{1}{\omega}\)
- \(\omega\cdot\bar{\omega}=1\)
今回は、1の3乗根 \(\omega\) について解説します。
複素数に関する大学入試の問題としては、それほど複雑な問題は出題されず、比較的単純な計算問題が多く出題されているようです。
(というのも、少しでも応用的な問題にしてしまうと、すぐに高校の範囲を超えてしまうからだと思われます)
そうなると、入試において、この複素数の分野は、得点を稼ぐチャンス!であるとともに、解けないと周りに差を付けられかねない、絶対に得点したい分野でもあります。
ぜひ、今回の解説を通じて、基本的な計算・操作に慣れ、複素数の分野は確実に得点できる力を身に着けていきましょう!
解説
各関係式の導出
まずは、計算に利用する、基本的な関係式を導出していきます。
\({\omega}^{3}=1\)
こちらは、ある意味当然に成り立ちます。(定義通りと言ってもいいかもしれません)
今、\(\omega\) は、\({x}^{3}=1\) の解なので、この \(x\) に\(\omega\) を代入すると、求める形が得られます。
また、実際に計算してみると、以下のようになり、確かに成立します。
\[\begin{alignat*}{3}
{\omega}^{3}&={\biggl(\frac{-1\pm\sqrt{3}i}{2}\biggr)}^{3}\\
&=\frac{1}{{2}^{3}}\bigl\{{(-1)}^{3}+3\cdot{(-1)}^{2}\cdot(\pm\sqrt{3}i) \\
&\qquad+3\cdot(-1)\cdot{(\pm\sqrt{3}i)}^{2}+{(\pm\sqrt{3}i)}^{3}\bigr\} \\
&=\frac{1}{8}({-1}\pm3\sqrt{3}i+9\mp3\sqrt{3}i) \\
&=\frac{1}{8}\cdot 8=1
\end{alignat*}\]
\({\omega}^{2}+\omega+1=0\)
こちらは \({x}^{3}=1\) を変形することで導出します。
\[\begin{alignat*}{3}
&{x}^{3}=1 \\
\Leftrightarrow\ &{x}^{3}-1=0 \\
\Leftrightarrow\ &(x-1)({x}^{2}+x+1)=0
\end{alignat*}\]
これを解くと、\(x=1,\)\({x}^{2}+x+1=0\) となります。
今、\(\omega\) は \({x}^{3}=1\) の \(x=1\) 以外の解の1つと定義しており、まさに上の式変形から得られた、\({x}^{2}+x+1=0\) の解であることがわかります。
したがって、この式に \(x=\omega\) を代入すると、求める関係式 \({\omega}^{2}+\omega+1=0\) が得られました。
\({\omega}^{2}=\bar{\omega}=\frac{1}{\omega}\)
前の章で、\({\omega}^{2}+\omega+1=0\) という関係が確認できました。
こちらを用いて、\({\omega}^{2}=\)\(\ \bar{\omega}=\)\(\ \frac{1}{\omega}\) という関係を導出していきます。
\[\begin{alignat*}{3}
&{\omega}^{2}+\omega+1=0 \\
\Leftrightarrow\ &{\omega}^{2}=-\omega-1 \\
\Leftrightarrow\ &{\omega}^{2}=-\frac{-1\pm\sqrt{3}i}{2}-1 \\
\Leftrightarrow\ &{\omega}^{2}=\frac{1\mp\sqrt{3}i-2}{2} \\
\Leftrightarrow\ &{\omega}^{2}=\frac{-1\mp\sqrt{3}i}{2}
\end{alignat*}\]
したがって、
- \(\omega=\frac{-1\textcolor{#FF0000}{+}\sqrt{3}i}{2}\) とすると、\({\omega}^{2}=\frac{-1\textcolor{#00B0F0}{-}\sqrt{3}i}{2}=\bar{\omega}\)
- \(\omega=\frac{-1\textcolor{#00B0F0}{-}\sqrt{3}i}{2}\) とすると、\({\omega}^{2}=\frac{-1\textcolor{#FF0000}{+}\sqrt{3}i}{2}=\bar{\omega}\)
という関係が導出できました。
一方で、\({\omega}^{3}=1\) の両辺を \(\omega\ (\ne 0)\) で割り算すると、
\[{\omega}^{2}=\frac{1}{\omega}\]
したがって、
\[{\omega}^{2}=\bar{\omega}=\frac{1}{\omega}\]
という関係が導出できました。
\(\omega\cdot\bar{\omega}=1\)
前の章で、\({\omega}^{2}=\bar{\omega}\) という関係が確認できました。
こちらの両辺に、\(\omega\) を掛け算すると、
\[{\omega}^{2}\cdot\omega=\bar{\omega}\cdot\omega\]
左辺は、\({\omega}^{2}\cdot\omega={\omega}^{3}=1\) なので、
\[{\omega}^{3}=\bar{\omega}\cdot\omega\]
\[\therefore\ \omega\cdot\bar{\omega}=1\]
となり、求める関係が得られました。
\(\omega\) の計算の具体例
先ほど求めた、各関係式ですが、これを使うと何がうれしいのか。
例題を2問ほど確認し、その使い方を習得していきましょう。
\({\omega}^{100}+{\omega}^{200}\)
まずは、こちらの問題です。
もちろん、\({\omega}\) を100回掛け合わせて、\({\omega}^{100}\) を計算すれば、\({\omega}^{100}+{\omega}^{200}={\omega}^{100}\cdot(1+{\omega}^{100})\) から計算できなくはないです。
、、、が、やりたくないし、いくら時間があっても足りないですよね。。。
そこで、計算の工夫をします。どのように工夫するかというと、
\({\omega}^{3}=1\)
を使ってみましょう。
そのためにまず、与えられた式に、無理やり \({\omega}^{3}\) の形を作ることを考えます。すると、
\[\begin{alignat*}{3}
&{\omega}^{100}+{\omega}^{200} \\
&={\omega}^{3\times 33+1}+{\omega}^{3\times 66+2} \\
&\stackrel{\mathrm{(※)}}{=}{({\omega}^{3})}^{33}\cdot{\omega}^{1}+{({\omega}^{3})}^{66}\cdot{\omega}^{2} \\
&={1}^{33}\cdot\omega+{1}^{66}\cdot{\omega}^{2}\quad(\because\ {\omega}^{3}=1) \\
&=\omega+{\omega}^{2}
\end{alignat*}\]
と、次数を \(2\) 乗まで下げることができ、かなり計算が省略できました!
※こちらの式変形では、指数法則を利用しています。指数法則については、こちらをご覧ください。
、、、と、このまま \(\omega+{\omega}^{2}\) を計算してもいいのですが、せっかくなので、もう少し、計算の工夫をしてみましょう。
上の章で導出した、
\[{\omega}^{2}+\omega+1=0\]
を利用すると、
\[\omega+{\omega}^{2}=-1\]
となります。
したがって、求める \({\omega}^{100}+{\omega}^{200}\) は、
\[{\omega}^{100}+{\omega}^{200}=\omega+{\omega}^{2}=-1\]
と計算できました!
\(\sum\limits_{k=0}^{2025}{\omega}^{k}\)
こちらの問題は、いくつか解き方があるので、ここでは次の2つの方法をご紹介します。
- 等比数列の和として解く方法
- \(1+\omega+{\omega}^{2}\) を作る方法
等比数列の和として解く方法
まずは、「等比数列の和として解く方法」です。これが一番スタンダードな方法な気がします。
\(\sum\limits_{k=0}^{2025}{\omega}^{k}\) は、初項 \(1\ (={\omega}^{0}),\)公比 \(\omega\ (\ne 1),\)項数 \(2026\ (=2025-0+1)\) の等比数列の和なので、
\[\begin{alignat*}{3}
&\sum_{k=0}^{2025}{\omega}^{k} \\
&\stackrel{\mathrm{(※)}}{=}\frac{1\cdot(1-{\omega}^{2026})}{1-\omega} \\
&=\frac{1-{\omega}^{3\times 675+1}}{1-\omega} \\
&=\frac{1-{({\omega}^{3})}^{675}\cdot\omega}{1-\omega} \\
&=\frac{1-{1}^{675}\cdot\omega}{1-\omega}\quad(\because\ {\omega}^{3}=1) \\
&=\frac{1-\omega}{1-\omega}=1
\end{alignat*}\]
となり、\(\sum\limits_{k=0}^{2025}{\omega}^{k}=1\) と求めることができました!
※こちらの式変形では、等比数列の和の公式を利用しています。等比数列については、こちらをご覧ください。
\(1+\omega+{\omega}^{2}\) を作る方法
次に、「\(1+\omega+{\omega}^{2}\) を作る方法」を見ていきます。
上の章で導出した通り、\({\omega}^{2}+\omega+1={\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}=0\) であり、こちらの性質を利用することを念頭に、式変形を行っていきます。
\[\begin{alignat*}{3}
&\sum_{k=0}^{2025}{\omega}^{k} \\
&={\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}+\dots+{\omega}^{2025} \\
&={\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2} \\
&\qquad+{\omega}^{3}\cdot({\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}) \\
&\qquad+{\omega}^{6}\cdot({\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}) \\
&\qquad+{\omega}^{9}\cdot({\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}) \\
&\qquad\quad\dots \\
&\qquad+{\omega}^{2022}\cdot({\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}) \\
&\qquad+{\omega}^{2025} \\
&={\omega}^{2025}\quad(\because\ {\omega}^{0}+{\omega}^{1}+{\omega}^{2}=0) \\
&={\omega}^{3\times 675} \\
&={({\omega}^{3})}^{675} \\
&={1}^{675}\quad(\because\ {\omega}^{3}=1) \\
&=1
\end{alignat*}\]
となり、\(\sum\limits_{k=0}^{2025}{\omega}^{k}=1\) と求めることができました!
おわりに
お疲れさまでした!今回は、1の3乗根 \(\omega\) について、解説しました。
\(\omega\) を含む複素数は、初めて学ぶときは、なんでこんなの勉強してるんだろう・・・?と、なかなか勉強のモチベーションが湧きづらいものな気がします。(私もそうでした。。。)
しかし、複素数は、大学以降の数学や物理学では欠かせないもので、これのおかげで表現できる物理現象が多々存在します。(身近な例でいうと、バネ運動や波動)
これらの研究をしたいと思っている方は、ぜひ楽しみにして、今回の計算のような基礎力の向上に励んでいきましょう!
また、そうでない方も、冒頭にも書いた通り、複素数の問題は、入試で出題されると比較的得点しやすい分野です。
ぜひ、複素数の計算に慣れて、得点源にしていただけると幸いです。
\({x}^{3}=1\) の \(x=1\) 以外の解の1つを \(\omega\) とおくと、以下の関係が得られる。
(\(\bar{\alpha}\) は、\(\alpha\) の共役複素数)
- \({\omega}^{3}=1\)
- \({\omega}^{2}+\omega+1=0\)
- \({\omega}^{2}=\bar{\omega}=\frac{1}{\omega}\)
- \(\omega\cdot\bar{\omega}=1\)
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