【整式の割り算(定義)】
与えられた整式 \(P(x),\)\(A(x)\) に対して、「\(P(x)\) を \(A(x)\) で割り算する」とは、以下を満たす整式 \(Q(x),\)\(R(x)\) を求めることと定義する
※この \(Q(x)\) を商、\(R(x)\) を余りと呼ぶ
- \(P(x)=A(x)\cdot Q(x)+R(x)\)
- \(A(x)\) の次数 \(>\) \(R(x)\) の次数
【整式の割り算のやり方(筆算を用いた方法)】
整数の割り算と同じように、割る式・割られる式の係数を並べ、最高次の係数が合うように、商を立てる
※割る式・割られる式の係数を並べるとき、0次の項は「0」と書く必要があることに注意
【(発展)整式の割り算の一意性】
上記のように整式の割り算を定義する場合、\(Q(x),\)\(R(x)\) は、一意に表される(=他の表し方はできない)
解説
整式の割り算とは
自然数の割り算は、小学校の算数で勉強しますが、その定義を小難しく書くと、こんな感じになります。
【自然数の割り算(定義)】
与えられた自然数 \(p,\)\(a\) に対して、「\(p\) を \(a\) で割り算する」とは、以下を満たす自然数 \(q\) と、\(0\) 以上の整数 \(r\) を求めることと定義する
※この \(q\) を商、\(r\) を余りと呼ぶ
- \(p=aq+r\)
- \(a>r\)
見た目はかなりイカつい感じになりましたが、言っていることはとてもシンプルで、みなさんがよく知っている、あの割り算です。
(例)
「\(p=15\) を \(a=6\) で割り算する」とは、
- \(15=6\times q+r\)
- \(6>r\)
を満たす \(q,\)\(r\) を求めることです。
そして、\(q=2,\)\(r=3\) とすると、2つの関係を満たします。
- \(15=6\times 2+3\)
- \(6>r=3\)
この「自然数の割り算」の定義(考え方)を、整式でも導入します。
そうすると、「整式の割り算」とは、以下のような定義になります。
【整式の割り算(定義)】
与えられた整式 \(P(x),\)\(A(x)\) に対して、「\(P(x)\) を \(A(x)\) で割り算する」とは、以下を満たす整式 \(Q(x),\)\(R(x)\) を求めることと定義する
※この \(Q(x)\) を商、\(R(x)\) を余りと呼ぶ
- \(P(x)=A(x)\cdot Q(x)+R(x)\)
- \(A(x)\) の次数 \(>\) \(R(x)\) の次数
どうでしょう。自然数の場合の割り算の定義と、とてもよく似てますよね!
ただ、1つだけ大きく違うところがあり、
それは、2つ目の関係が、「\(A(x)\) の次数 \(>\) \(R(x)\) の次数」となっているところです。
つまり、自然数の場合は、割る式 \((a)\) と 余り \((r)\) をそのまま大小関係を見ていたところ、整式に導入するにあたり、定義が少しだけ修正されますので、要注意です!
自然数の場合と同様、具体例を見てみましょう。
(例)
「\(P(x)={x}^{2}-3x+7\) を \(A(x)=x+2\) で割り算する」とは、
- \({x}^{2}-3x+7=(x+2)\times Q(x)+R(x)\)
- \(((x+2)\) の次数 \((=1))\ >(R(x)\) の次数\()\)
を満たす \(Q(x),\)\(R(x)\) を求めることです。
そして、\(Q(x)=x-5,\)\(R(x)=17\) とすると、2つの関係を満たします。
(整式の割り算の具体的な方法は、次の章で解説します。)
- \({x}^{2}-3x+7=(x+2)\times(x-5)+17\)
- \(((x+2)\) の次数 \((=1))\ >(R(x)\) の次数 \((=0))\)
整式の割り算のやり方(筆算を用いた方法)
それでは、実際に、整式の割り算のやり方を見ていきましょう。
ここでは筆算を用いた方法を解説します。
※組立除法(1次の場合)、恒等式を作って係数比較など、いくつか方法はあるのですが、個人的には、結局、愚直に筆算するのが一番早く・計算ミスを少なくできる気がしており、ここではこの方法を解説します
(例)
\(2{x}^{4}-5{x}^{3}-6{x}^{2}-15\) を \(2{x}^2-x+3\) で割った余り
割り算の筆算は次のようになり、
\(Q(x)={x}^{2}-2x-\frac{11}{2},\)\(R(x)=\frac{1}{2}+\frac{3}{2}\) と求められます。

具体的な手順を見てみましょう。
① 割る式・割られる式の係数を並べて書く
まずは、このように、割る式と割られる式の係数を並べて書きます。

(補足)
- いつもやっている自然数の割り算をするときと同じ要領で、各項の係数を書きます。
- 少し違うのは、係数同士の書く位置が近くなりすぎないようにしましょう。(別の項なのか、2桁の係数なのか、わからなくなってしまうので。)
- \(x\) も一緒に書いても構わないのですが、計算用紙がゴチャゴチャしてしまうため、できれば省略することをおススメします
、、、と、ここで、最初にして最大のポイントがあります。それは、「係数が \(0\) の項も忘れずに、「\(0\)」と書く」ということです。
今回の例でいえば、割られる式は、\(2{x}^{4}-5{x}^{3}-6{x}^{2}-15\) であり、1次の項がありません。(=係数が \(0\))
筆算を書くときは、こちらの1次の項も忘れずに書く必要があります。そうしないと、計算結果が変わってしまいます。
ちなみに、割られる式だけでなく、割る式の場合も、係数が \(0\) の項は忘れずに書くようにしてください。
(割る式・割られる式ともに、)係数が \(0\) の項も忘れずに書く!
② 最高次の係数を合わせるように商を立て、引き算
これも、自然数の筆算と同じです。

①「割られる式の最高次の係数=2」「割る式の最高次の係数=2」なので、商に1を立てる
↓
②低次の項も含めて、商に立てた1を掛け算し、その結果を下に追加
↓
③上から下に引き算し、次の項を下ろす
③ ②の操作を繰り返す
②で得られた3つの項に対して、改めて②の操作を行い、一番右まで(下す項が無くなるまで)、これを繰り返します。

④ ③で得られた結果に、\(x\) を戻す
最後に、\(x\) を戻します。
このとき、商と余りの \(x\) の次数が何になるか、が問題になります。
、、、が、そんなに難しくないので、安心してください!ポイントは、割られる式と割る式の最高次の次数です。
商について
今、「割られる式の最高次の次数=4」「割る式の最高次の次数=2」でした。
そうすると、(割る式)×(商)の次数=(割られる式)の次数になるはずなので、商の次数は、2次(=4-2)となってほしいですよね。
したがって、商の最高次は2次となり、あとは1つずつ次数を減らしていけばOKです。
余りについて
余りはもっと簡単です。
先ほど作成した筆算で、一番右は、定数項でした。
、、、ということは、余りの最低次は自動的に定数項(0次)となり、あとは1つずつ次数を増やしていけばOKです。
\(x\) の戻し方
- 商
最高次の次数に着目し、(割る式)×(商)の次数=(割られる式)の次数となるように最高次の次数を設定する - 余り
最低次は必ず定数であり、1つずつ次数を増やして設定する
お疲れさまでした!以上で、筆算により、整式の割り算ができました!
(発展)整式の割り算の一意性
最後に、整式の割り算の一意性について証明をしてみます。
ここまで当然のように、整式の割り算を、\(P(x)=A(x)\cdot Q(x)+R(x)\) と書き、筆算で具体的な計算をしてきたのですが、実は、これはそんなに当然なことではありません。
どういうことかというと、
筆算で得られた結果は、いくつかある商・余りのペアの1つで、その他にも、商・余りのペアが存在するかもしれません。
もしそうだとすると、それも含めて求めなければ、割り算の結果として十分とは言えません。
、、、が、そのような他の表し方はできず、商・余りのペアはただ1つに決まる、ということが証明できます。ここでは、この証明を見ていきます。
なお、こちらは、少々発展的な内容で、高校数学の範囲を超えている気がするので、お時間がない方は読み飛ばしていただければと思います。
【(発展)整式の割り算の一意性】
整式の割り算において、商・余りは、一意に表される(=他の表し方はできない)
<証明>
\(P(x)\) を \(n\) 次式、\(A(x)\) を \(k\) 次式 \((n\geqq k)\) として、\(P(x)\) を \(A(x)\) で割り算することを考えます。
\(P(x)\) を \(A(x)\) で割り算した結果が、整式 \(Q_{1}(x),\)\(Q_{2}(x),\)\(R_{1}(x),\)\(R_{2}(x)\) を用いて、以下の通り表せるとします。
- \(P(x)=A(x)\cdot Q_{1}(x)+R_{1}(x)\) ・・・①
- \(P(x)=A(x)\cdot Q_{2}(x)+R_{2}(x)\) ・・・②
なお、このとき、整式 \(R_{1}(x),\)\(R_{2}(x)\) は、\(P(x)\) を \(k\) 次式 \(A(x)\) で割り算した余りのため、整式の割り算の定義より、いずれも高々 \((k-1)\) 次となります。
【(参考)整式の割り算(定義)】
与えられた整式 \(P(x),\)\(A(x)\) に対して、「\(P(x)\) を \(A(x)\) で割り算する」とは、以下を満たす整式 \(Q(x),\)\(R(x)\) を求めることと定義する
※この \(Q(x)\) を商、\(R(x)\) を余りと呼ぶ
- \(P(x)=A(x)\cdot Q(x)+R(x)\)
- \(A(x)\) の次数 \(>\) \(R(x)\) の次数
①=②より、
\[\begin{alignat*}{3}
&A(x)\cdot Q_{1}(x)+R_{1}(x) \\
&\qquad=A(x)\cdot Q_{2}(x)+R_{2}(x) \\
\Leftrightarrow\ &A(x)(Q_{1}(x)-Q_{2}(x)) \\
&\qquad=R_{2}(x)-R_{1}(x)\ ・・・③
\end{alignat*}\]
今、\(R_{1}(x),\)\(R_{2}(x)\) はいずれも高々 \((k-1)\) 次であることから、右辺は全体として、高々 \((k-1)\) 次です。
一方で、左辺は、\(A(x)\) は \(k\) 次であり、もし \(Q_{1}(x)-Q_{2}(x)\ne 0\) とすると、両辺で \(x\) の次数が不一致(左辺:\(k\) 次以上、右辺:\((k-1)\) 次以下)となってしまうため、不適。
したがって、\(Q_{1}(x)-Q_{2}(x)=0\) のため、\(Q_{1}(x)=Q_{2}(x)\) となります。
また、この結果を③に代入すると、\(R_{2}(x)-R_{1}(x)=0\) のため、\(R_{1}(x)=R_{2}(x)\) となります。
以上より、商・余りともに、等しいことがわかり、題意は示されました。
(証明終了)
おわりに
お疲れさまでした!今回は、整式の割り算の定義・筆算での計算方法と、割り算の一意性について解説しました。
整式の割り算は、なんとなくわかりにくく、とっつきづらいイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
その原因は、そもそもの「整式の割り算の定義」自体が、少々わかりにくいことがあると思います。。。
一方で、整式の割り算は、他の分野でも利用することが非常に多く(※)、この整式の割り算ができることを前提に、より発展的な学習をしていくことになります。
ぜひ、以下を繰り返し行い、早めのうちに整式の割り算をマスターしておきましょう!
まずは、慣れ親しんでいる自然数の割り算を、無理やり小難しい言い方に変換してみる
↓
整式バージョンの割り算の定義に挑戦!
※例えば、数学IIIで勉強する以下のような積分では、分数の部分を割り算(赤文字部分)してから、商と余りに分けて計算します。
\[\begin{alignat*}{3}
&\int\frac{\textcolor{#FF0000}{{x}^{3}+60}}{{x}^{2}+5x-1}dx \\
&=\int\frac{\textcolor{#FF0000}{({x}^{2}+5x-1)(x-5)+26x+65}}{{x}^{2}+5x-1}dx \\
&=\int\Bigl\{(x-5)+\frac{13({x}^{2}+5x-1)’}{{x}^{2}+5x-1}\Bigr\}dx \\
&=\frac{1}{2}{x}^{2}-5x+13\log|{x}^{2}+5x-1|+C
\end{alignat*}\]
【整式の割り算(定義)】
与えられた整式 \(P(x),\)\(A(x)\) に対して、「\(P(x)\) を \(A(x)\) で割り算する」とは、以下を満たす整式 \(Q(x),\)\(R(x)\) を求めることと定義する
※この \(Q(x)\) を商、\(R(x)\) を余りと呼ぶ
- \(P(x)=A(x)\cdot Q(x)+R(x)\)
- \(A(x)\) の次数 \(>\) \(R(x)\) の次数
【整式の割り算のやり方(筆算を用いた方法)】
整数の割り算と同じように、割る式・割られる式の係数を並べ、最高次の係数が合うように、商を立てる
※割る式・割られる式の係数を並べるとき、0次の項は「0」と書く必要があることに注意
【(発展)整式の割り算の一意性】
上記のように整式の割り算を定義する場合、\(Q(x),\)\(R(x)\) は、一意に表される(=他の表し方はできない)
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