\(x\) の多項式 \(f(x)\) が、\(f(\omega)=0\) となる場合、
\(f(x)\) は、\(x-\omega,\)\(x-{\omega}^{2}\) を因数に持つ
(\(\Leftrightarrow\ f(x)\) は、\({x}^{2}+x+1\) を因数に持つ)
今回は、1の3乗根 \(\omega\) を用いた因数分解について解説します。
「因数分解」と聞くと、通常は、\(x-\alpha\) (\(\alpha\) は整数)を因数に持つ場合をイメージすると思います。(私もそうです)
が、実は、難関大学の入試などでは、\(x-\omega\) (\(\omega\) は1の3乗根)を因数に持つような問題が出題される場合があります。
こちらについては、事前に1度でも経験がないと、その場ではなかなか太刀打ちできないタイプの問題が多く、こちらのブログでも取り上げてみました。
どのような問題が出題されるのか、どうやって解き進めるかを、具体例を通じて解説していますので、ぜひ、1度目を通していただけるとうれしいです!
※今回は、1の3乗根 \(\omega\) を学習済みの前提で解説を進めています。
こちらの学習がまだだよーという方は、ぜひ先に、こちらのページをご覧いただいてから、戻ってきていただければと思います。
解説
具体例(\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) の因数分解)
「解答」と「思考プロセス」
<例題>
\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) を、整数係数の範囲で、因数分解せよ
<解答>
\({x}^{5}+{x}^{4}+1=({x}^{2}+x+1)({x}^{3}-x+1)\)
<思考プロセス>
まず、\(f(x)={x}^{5}+{x}^{4}+1\) とおき、有理数の範囲で因数定理を利用して、\(x-\alpha\) (※ \(\alpha\) は有理数)という形の因数を持たないか確認します。
今、最高次の5次の係数は \(1\)、最低次の定数は \(1\) なので、有理根定理より \(\alpha\) の候補は \(\pm1\) です。そこで、実際に代入してみると、
- \(f(1)={1}^{5}+{1}^{4}+1=3\ne 0\)
- \(f(-1)={(-1)}^{5}+{(-1)}^{4}+1=1\ne 0\)
となり、いずれも \(\ne 0\) です。
したがって、\(\alpha\) が有理数の範囲では、\(x-\alpha\) という形の因数は持たないことがわかります。
※因数定理と有理根定理については、こちらのページをご覧ください
(ここからが、今回の本題です!)
では、\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) は、因数分解できないのか、というと、そうでもありません。
なぜならば、先ほどは、\(\alpha\) を有理数の範囲に限定して探したから。
そこで、試しに、\(f(x)\) に \(x=\omega\) を代入してみましょう。すると、
\[\begin{alignat*}{3}
f(\omega)&={\omega}^{5}+{\omega}^{4}+1 \\
&={\omega}^{3+2}+{\omega}^{3+1}+1 \\
&={\omega}^{3}\cdot{\omega}^{2}+{\omega}^{3}\cdot{\omega}^{1}+1 \\
&=1\cdot{\omega}^{2}+1\cdot\omega+1\quad(\because\ {\omega}^{3}=1) \\
&={\omega}^{2}+\omega+1 \\
&=0\quad(\because\ {\omega}^{2}+\omega+1=0)
\end{alignat*}\]
となり、因数定理より、\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) は、\(x-\omega\) を因数に持つことがわかりました!
また、一般に、\(f(x)=0\) という方程式が \(x=\omega\) を解に持つとき、\(x={\omega}^{2}\ (=\bar{\omega})\) も \(f(x)=0\) の解となります(※)。
そのため、因数定理より、\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) は、\(x-{\omega}^{2}\) を因数に持つことがわかります。
※実際に、\(f(x)\) に \(x={\omega}^{2}\) を代入してみると、以下のようになり、確かに、\(f({\omega}^{2})=0\) であることがわかります。
\[\begin{alignat*}{3}
f({\omega}^{2})&={({\omega}^{2})}^{5}+{({\omega}^{2})}^{4}+1 \\
&={\omega}^{10}+{\omega}^{8}+1 \\
&={\omega}^{3\times 3+1}+{\omega}^{3\times 2+2}+1 \\
&={\omega}+{\omega}^{2}+1\quad(\because\ {\omega}^{3}=1) \\
&=0\quad(\because\ {\omega}^{2}+\omega+1=0)
\end{alignat*}\]
※こちらの証明は、以下のページで行っていますので、併せてご覧ください
以上の検討より、\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) は \(x-\omega,\)\(x-{\omega}^{2}\) を因数に持つことがわかりました。
次に、これらの因数を、整数係数に変換することを考えます。そこで、これらを掛け合わしてみると、
\[\begin{alignat*}{3}
&(x-\omega)(x-{\omega}^{2}) \\
&={x}^{2}-(\omega+{\omega}^{2})x+{\omega}^{3} \\
&={\small{x}^{2}-(-1)x+1\quad(\because\ \omega+{\omega}^{2}+1=0,{\omega}^{3}=1)} \\
&={x}^{2}+x+1
\end{alignat*}\]
となり、\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) は 整数係数である因数 \({x}^{2}+x+1\) を持つことがわかりました!
あとはがんばって割り算をすると、
\[{x}^{5}+{x}^{4}+1=({x}^{2}+x+1)({x}^{3}-x+1)\]
となり、無事に因数分解をすることができました!
※今回のメイントピックではないため、最後の割り算の部分は省略しましたが、やり方に不安がある方は、併せてこちらをご覧下さい
※後ろの項の \({x}^{3}-x+1\) については、以下の理由から、整数係数の範囲ではこれ以上因数分解できません。
もし因数分解できるとすると、以下のいずれかの形で表されることになります。(\(\alpha,\)\(\beta,\)\(\gamma\) はいずれも整数)
- \({x}^{3}-x+1=(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)\)
- \({x}^{3}-x+1={(x-\alpha)}^{2}(x-\beta)\)
- \({x}^{3}-x+1={(x-\alpha)}^{3}\)
そのため、もし因数分解できるとすると、必ず、\((x-\alpha)\) という \(x\) の1次式を因数に持つことになります。
一方で、上で検討した有理数の範囲での因数定理の適用において、\(\alpha\) が有理数の範囲では、\(f(x)\)は \(x-\alpha\) という形の因数は持たないことがわかっています。
したがって、\({x}^{3}-x+1\) は整数係数の範囲では、因数分解できないことがわかりました。
思考プロセスの振り返り
先ほどの思考プロセスを少し振り返ってみると、
- まずは、通常通り、有理数の範囲で因数定理を適用してみた
- 1の検討ではうまくいかないので、\(x=\omega\) を代入してみると、たまたま \(0\) になった
という流れでした。
、、、となると、「たまたま \(0\) になった」のはいいけど、
そもそもなぜ、\(x=\omega\) を代入してみようと思ったの?
というのが気になるところだと思います。
これについては、長年数学を解いてきた経験・勘としか言えない部分も、多少はあるものの。。。
こと、受験数学に限って言えば、ある程度、「こういう場合に \(x=\omega\) を代入してみたくなる」ということが言えます。
それはズバリ、
与えられた式の係数が、全て \(1\) の場合
上の具体例でも見たように、\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) に \(x=\omega\) を代入すると、各項から、
- \({x}^{5}={\omega}^{2}\)
- \({x}^{4}=\omega\)
という値が現れて、
\[{\omega}^{2}+\omega+1=0\]
が導かれました。
この \({\omega}^{2}+\omega+1=0\) は、元々の \({x}^{5}+{x}^{4}+1\) の係数が全て \(1\) だからこそ、現れた形です。
(もし、\({x}^{5}+\textcolor{#FF0000}{2}{x}^{4}+1\) だと、\(\omega\) が残り、うまく \(0\) になりません)
そのため、
与えられた式の係数が、全て \(1\) の場合
に、因数定理で \(x=\omega\) を疑ってみると、うまくいくことがあるかもしれません。
(あくまでも、有理数の範囲での因数定理を適用した後に検討することになりますが。)
ちなみに、、、
\(3{x}^{5}+3{x}^{4}+2{x}^{3}+4{x}^{2}+4x+5\) のような、係数が \(1\) でない整式でも、当然、\(x=\omega\) を係数に持つ場合はありえます。
実際に因数分解してみると、\(({x}^{2}+x+1)(3{x}^{3}-x+5)\) となるのですが、式の形があまりに難しくて、入試問題で
「\(3{x}^{5}+3{x}^{4}+2{x}^{3}+4{x}^{2}+4x+5\) を因数分解せよ」
という問題を出したとしても、おそらく誰も解けないと思います。(誘導があれば別ですが。)
そのため、係数が \(1\) でない場合に、\(x-\omega\) が因数となるような因数分解をさせる可能性は限りなく低いと思われますし、もし万が一出てしまっても、誰も解けず、どうせ差はつかないので、ご安心ください。
(別解)無い項を補う
ここまでで、\(x=\omega\) として因数定理を適用することで、因数分解する方法を解説しましたが、先ほどの例題には、実は別解があります。
ちなみに、こちらの別解であれば、因数分解を習いたての中学3年生・高校1年生でも、十分に解くことができます!
<例題>
\({x}^{5}+{x}^{4}+1\) を、整数係数の範囲で、因数分解せよ
<解答>
\({x}^{5}+{x}^{4}+1=({x}^{2}+x+1)({x}^{3}-x+1)\)
<思考プロセス>
まず、与えられた式を、もう一度、じっくり眺めてみましょう。
\[{x}^{5}+{x}^{4}+1\]
すると、何か思いませんか??
・・・そうです!
\(\textcolor{#FF0000}{{x}^{3}+{x}^{2}+x}\) があれば、\({x}^{5}+{x}^{4}+\textcolor{#FF0000}{{x}^{3}+{x}^{2}+x}+1\) となってキレイに並ぶのに
ということです。
そこで、とりあえず、無理やり、付け足してしまいましょう。すると、
\[f(x)\stackrel{\mathrm{???}}{=}{x}^{5}+{x}^{4}+\textcolor{#FF0000}{{x}^{3}+{x}^{2}+x}+1\]
となります。
、、、が、勝手に問題を修正するわけにもいかないので、付け加えた分を、引き算することで調整します。
\[\begin{alignat*}{3}
f(x)&=({x}^{5}+{x}^{4}+\textcolor{#FF0000}{{x}^{3}+{x}^{2}+x}+1) \\
&\qquad-(\textcolor{#FF0000}{{x}^{3}+{x}^{2}+x})
\end{alignat*}\]
これを式変形すると、
\[\begin{alignat*}{3}
f(x)&=({x}^{5}+{x}^{4}+{x}^{3}+{x}^{2}+x+1) \\
&\qquad-({x}^{3}+{x}^{2}+x) \\
&=({x}^{5}+{x}^{4}+{x}^{3})+({x}^{2}+x+1) \\
&\qquad-({x}^{3}+{x}^{2}+x) \\
&={x}^{3}\cdot({x}^{2}+x+1)+({x}^{2}+x+1) \\
&\qquad-x\cdot({x}^{2}+x+1) \\
&=({x}^{2}+x+1)({x}^{3}-x+1)
\end{alignat*}\]
となり、無事に因数分解できました!
おわりに
お疲れさまでした!今回は、\(\omega\)(オメガ)を用いた因数分解を見てきました。
有理数の範囲での因数定理については、高校の定期試験や、共通テストでも狙われやすい、定番のテーマですが、\(x-\omega\) を因数に持つ場合は、あまり知られていないのではないかと思います。
しかし、2次試験(特に、難関大学)の場合は、出題されても全くおかしくなく、加えて、1度でも経験したことがあるかどうかで、解ける/解けないが大きく左右されてしまう、非常に恐ろしいテーマでもあります。。
今回こちらのブログをご覧いただいたみなさんは、\(\omega\)(オメガ)を用いた因数分解については、まわりよりも1歩アドバンテージがあると思いますので、ぜひ、自信をもって今後の学習に生かしていっていただければと思います。
また、もしよろしければ、お友達にも紹介いただき、お友達も含めて必要な知識を身に着けていただければうれしいです!
\(x\) の多項式 \(f(x)\) が、\(f(\omega)=0\) となる場合、
\(f(x)\) は、\(x-\omega,\)\(x-{\omega}^{2}\) を因数に持つ
(\(\Leftrightarrow\ f(x)\) は、\({x}^{2}+x+1\) を因数に持つ)
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