今回は、ルート2が無理数であることの証明について解説します。
こちらは、高校に入学してすぐの数学Iの授業で勉強することが多いと思いますが、いきなり「互いに素」という見たこともない概念が出てきて、結構ニガテにされている方も多い分野な気がしています。
今回は、高校の授業で扱うようなポピュラーなものから、少々マニアックなものまで、証明方法を5つ紹介しています。
どれを使っても証明できることには違いないので、ぜひ、記述量や覚えやすさなどから、ご自身にあった方法を選択いただければと思います。
解説
【証明①】既約分数と置いて、「互いに素」の矛盾を導く(最もポピュラーな方法)
まずは、高校の授業でも勉強する、もっともポピュラーな証明から見ていきましょう。
<証明>
\(\sqrt{2}\) が、互いに素な自然数 \(p,\)\(q\) を用いて、
\[\sqrt{2}=\frac{q}{p}\]
と表せると仮定します。両辺に、\(p\) を掛け算して、
\[\sqrt{2}p=q\]
両辺を2乗して、
\[2{p}^{2}={q}^{2}\]
ここで、左辺は2の倍数なので、右辺も2の倍数であり、\(q\) は2の倍数となります。
そのため、自然数 \(q’\) を用いて、\(q=2q’\) と表せ、
\[2{p}^{2}={q}^{2}={(2q’)}^{2}\]
\[\therefore\ {p}^{2}=2{q’}^{2}\]
この式から、右辺は2の倍数なので、左辺も2の倍数であり、\(p\) は2の倍数となりますが、\(p\) も \(q\) も2の倍数となってしまい、\(p,\)\(q\) が互いに素であるということに矛盾します。
したがって、「\(\sqrt{2}=\frac{q}{p}\) と表せる」という仮定は否定され、\(\sqrt{2}\) は無理数であることが示されました。
(証明終了)
ちなみに、私が初めてこの証明を見たときは、
なんで、互いに素っていう、無理数とは全く関係ない矛盾を導くと示せたことになるの???
と、とても疑問に感じていた記憶があります。
こちらの解説を読んでいただいているみなさんの中にも、同じモヤモヤを抱えていらっしゃる方もいるかもしれません。
が!
これについては、あまり悩んでもいいことはないので、
偉い数学者がそう言っているから、全然関係ない矛盾でもいいんだ!と割り切るようにしましょう。
互いに素についての矛盾を導くという手法は、非常に汎用性が高く、大学入試でも利用する(すべき)場面が結構あります。さらに言えば、大学入試では、
問題の中で「互いに素」というキーワードが出てくる
↓
そうならないような矛盾が、必ず、現れるはず!
と思って問題を解き始めてもいいくらいです。
そんな中で、毎回、「全然関係ないことを証明するのに、互いに素の矛盾を使っていいのかな?」などと悩んでしまうと、出題者が意図してない箇所の検討に時間を割かれ、とてももったいないことになりかねません。
ぜひ、この点は割り切ってしまって、
全く関係ない(ように見える)証明でも、
偉い数学者がいいって言ってるんだから、いい!
と切り替えていただければと思います。
それでも、どうしても気持ち悪い!という方は、次以降の証明も見てみて、ご自身に合ったものを選んでいただければと思います。
【証明②】既約分数と置いて、「2の個数」の矛盾を導く(証明①の亜種)
<証明>
- 互いに素な自然数 \(p,\)\(q\) を用いて、\(\sqrt{2}=\frac{q}{p}\) と置けると仮定
- 両辺を払い、両辺を2乗して \(2{p}^{2}={q}^{2}\)
ここまでは証明①と一緒です。
ここで、左辺と右辺の「2」の個数を数えてみましょう。
- 左辺は、2乗(\({p}^{2}\))の部分は偶数個で、係数に2があるので、合わせて奇数個
- 右辺は、2乗(\({q}^{2}\))の部分だけなので偶数個
そのため、左辺と右辺で2の個数が一致することはあり得ず、イコールは成り立ちません。
したがって、「\(\sqrt{2}=\frac{q}{p}\) と表せる」という仮定は否定され、\(\sqrt{2}\) は無理数であることが示されました。
(証明終了)
こちらの証明②は、証明①と比べて、比較的違和感なく使える方も多いのではないでしょうか??
証明①で挫折しそうな方は、ぜひこちらの証明も候補に入れてみてください!
ただし、重要な注意点が1つあり、こちらの証明は、「素因数分解の一意性」というものを大前提に証明している、ということです。
「素因数分解の一意性」とは「素因数分解は1通りの方法でしか表せない」ということです。
例えば、\(100\) は、\({2}^{2}\cdot{5}^{2}\) 以外には表すことはできません。
(\({2}^{\textcolor{#FF0000}{3}}\cdot{5}^{2}\) や \({2}^{2}\textcolor{#FF0000}{\cdot 3}\cdot{5}^{2}\) などとなったりはしないということです)
高校の定期試験であれば、これを断りなく使ったとしても減点されることはまずないと思いますし、入試で使ってもほぼ問題はないとは思います。
が、「素因数分解の一意性」は自明なものではないため、大学の先生によっては、減点の対象にされる可能性はありますので、その点は十分にご注意ください。
【証明③】有理根定理を利用する
続いて、「有理根定理」という、因数分解をするときによく使う定理を用いた証明をご紹介します。
「有理根定理」についてはこちらのページで紹介していますので、先にご覧になってから戻ってくるようにしてください。
なお、ここからの証明は、ややマニアックな証明方法になってきますので、お時間のない方は飛ばしていただければと思います。
<証明>
\(\sqrt{2}\) は、\({x}^{2}=2\ \Leftrightarrow\ {x}^{2}-2=0\) の解です。(\(x=2\) を両辺2乗して得られる形から、明らかです。)
有理根定理より、この方程式が有理数解をもつ場合、その解は、\(\pm 1,\)\(\pm 2\) のいずれかとなります。
左辺 \(=f(x)\) として実際に代入してみると、
- \(f(\pm 1)={(\pm 1)}^{2}-2=-1\ne 0\)
- \(f(\pm 2)={(\pm 2)}^{2}-2=3\ne 0\)
となり、いずれも方程式の解ではないことがわかるため、\({x}^{2}-2=0\) は、有理数解をもちません。
したがって、\(\sqrt{2}\) は、無理数であること(有理数でないこと)が示されました。
(証明終了)
【(参考)有理根定理】
整式 \(P(x)=\)\({a}_{n}\ {x}^{n}\)\(\ +{a}_{n-1}\ {x}^{n-1}\)\(\ +・・・\)\(\ +{a}_{1}\ x\)\(\ +{a}_{0}\)
\(\ ({a}_{n}\ne 0 ,\)\({a}_{k}\) は整数\(\ (0\leqq k \leqq n))\)
が、1次式 \((x-\alpha)\) (※\(\alpha\) は有理数)で割り切れる場合、\(\alpha\) は、必ず以下の形となる。
\[\pm\frac{{a}_{0}の約数}{{a}_{n}の約数}\]
【証明④】無限降下法を利用する
続いて、無限降下法を用いた証明です。
と、証明に入る前に、そもそも無限降下法とは?ということですが、こちらは、背理法の証明方法の1つです。例えば、以下のような形で使います。
- 与えられた命題に沿わないような【自然数 \({N}_{0}\) が存在する】と仮定する
- このように仮定すると、\({N}_{0}\) よりも小さい自然数 \({N}_{1}\) を見つけられる
- \({N}_{1}\) が見つかると、それよりも小さい自然数 \({N}_{2}\) を見つけられる
- この操作を繰り返すと、自然数 \({N}_{k}\) を見つけられたことを利用して、それよりも小さい自然数 \({N}_{k+1}\) を見つけられる
- この操作は無限に繰り返すことができるが、自然数には最小値 \(1\) があるということと矛盾する
- したがって、最初においた【自然数 \({N}_{0}\) が存在する】という仮定が否定され、自然数 \({N}_{0}\) は存在しないことが証明される
それでは、こちらの「無限降下法」を利用した証明を見ていきましょう。
<証明>
\(\sqrt{2}\) が、自然数 \({m}_{0},\)\({n}_{0}\) を用いて、
\[\sqrt{2}=\frac{{n}_{0}}{{m}_{0}}\]
と表せると仮定します。(※)
両辺を払って、2乗すると、
\[2{{m}_{0}}^{2}={{n}_{0}}^{2}・・・①\]
ここで、左辺は2の倍数なので、右辺も2の倍数であり、\({n}_{0}\) は2の倍数となります。
そのため、自然数 \({n}_{1}\) を用いて、\({n}_{0}=2{n}_{1}\) と表せ、
\[2{{m}_{0}}^{2}={{n}_{0}}^{2}={(2{n}_{1})}^{2}\]
\[\therefore\ {{m}_{0}}^{2}=2{{n}_{1}}^{2}\]
この式から、右辺は2の倍数なので、左辺も2の倍数であり、\({m}_{0}\) は2の倍数となります。
そのため、自然数 \({m}_{1}\) を用いて、\({m}_{0}=2{m}_{1}\) と表せ、
\[{(2{m}_{1})}^{2}={{m}_{0}}^{2}=2{{n}_{1}}^{2}\]
\[\therefore\ 2{{m}_{1}}^{2}={{n}_{1}}^{2}・・・②\]
という関係が得られます。
ここで、①②を見比べてみると、
- \(2{{m}_{0}}^{2}={{n}_{0}}^{2}\)・・・①
- \(2{{m}_{1}}^{2}={{n}_{1}}^{2}\)・・・②
となり、添え字だけが異なり、形は同型をしていることがわかります。そのため、上記の操作を無限に繰り返せば、
\[2{{m}_{k}}^{2}={{n}_{k}}^{2}\]
という関係式を、いくらでも小さな自然数 \({m}_{k},\)\({n}_{k}\) に対して得られることになります。
しかしこれは、自然数には最小値 \(1\) があるということと矛盾しています。
したがって、\(\sqrt{2}\) が、【自然数 \({m}_{0},\)\({n}_{0}\) を用いて、\(\sqrt{2}=\frac{{n}_{0}}{{m}_{0}}\) と表せる】という仮定は否定され、\(\sqrt{2}\) は無理数であることが示されました。
(証明終了)
(※)ここでは、証明①・証明②とは異なり、「互いに素」である必要がありません。
そのため、単に、「自然数 \({m}_{1},\)\({n}_{1}\)」としています。
(※)よく見ていただくとわかるように、証明の流れ自体は、ほとんど、証明①②と変わりません。根底にある、何を矛盾とするか、という部分に差があるだけですので、お好きなものを利用いただければと思います。
- 証明①:「互いに素」の矛盾
- 証明②:「2の個数」の矛盾
- 証明③:「自然数の最小値」の矛盾
【証明⑤】連分数展開を利用する
最後に、連分数展開を利用し、連分数展開を無限に繰り返すことができることを用いた証明を見ていきます。
これは、かなりトリッキーな方法で、試験の現場として、使う機会があるかと言われると、、、というのが正直なところです。
ただ、連分数展開自体は、難関大学の入試問題でちょくちょく出題される、非常に重要なテーマですので、その練習も兼ねて見ていければと思います。
なお、今回の証明では、「①有理数⇒連分数展開が高々有限回可能である」ということを前提に、その対偶から、「②連分数展開が無限回可能⇒無理数である」ということを示しています。
①については、以下のページの中で証明していますので、併せてご覧ください。
<証明>
まず、\(\sqrt{2}\) を整数部分と小数部分に分けることを考えます。
\[1<2<4\ \Longleftrightarrow\ 1<\sqrt{2}<2\]
より、\(\sqrt{2}\) は、
- 整数部分:\(1\)
- 小数部分:\(\sqrt{2}-1\)
とわかります。これを、式に表すと、
\[\begin{alignat*}{3}
\sqrt{2}&=(整数部分)+(小数部分) \\
&=1+(\sqrt{2}-1)・・・①
\end{alignat*}\]
となります。次に、この小数部分について、分子の有理化を行うと、
\[\begin{alignat*}{3}
\sqrt{2}-1&=\frac{(\sqrt{2}-1)(\sqrt{2}+1)}{\sqrt{2}+1} \\
&=\frac{2-1}{\sqrt{2}+1} \\
&=\frac{1}{\sqrt{2}+1}
\end{alignat*}\]
したがって、①より、
\[\sqrt{2}=1+\frac{1}{\sqrt{2}+1}・・・②\]
となります。
この \(\sqrt{2}+1\) の部分を、さらに、整数部分・小数部分に分けることを考えます。
「\(1<\sqrt{2}<2\ \Longleftrightarrow\ 2<\sqrt{2}+1<3\)」なので、\(\sqrt{2}+1\) は、
- 整数部分:\(2\)
- 小数部分:\(\sqrt{2}-1\)
\((=(\sqrt{2}+1)-2)\)
とわかります。したがって、②より、
\[\begin{alignat*}{3}
\sqrt{2}&=1+\textcolor{#FF0000}{\frac{1}{\sqrt{2}+1}} \\
&=1+\frac{1}{(整数部分)+(小数部分)} \\
&=1+\frac{1}{2+(\sqrt{2}-1)} \\
&\stackrel{\mathrm{(※)}}{=}1+\frac{1}{2+\textcolor{#FF0000}{\frac{1}{\sqrt{2}+1}}}
\end{alignat*}\]
(※)小数部分の分子の有理化をしています
この赤文字で書いた部分の式を見ると、
- \(\sqrt{2}+1\) の整数部分・小数部分を分ける
- 小数部分の分子を有理化する
という操作を繰り返すことで、同じ形を無限に作り出せることがわかります。
したがって、連分数展開を無限に繰り返すことができることから、\(\sqrt{2}\) は無理数である(有理数ではない)ことが示されました。
(証明終了)
おわりに
お疲れさまでした!今回は、ルート2が無理数であることの証明について見てきました。
このブログを書くにあたって、私自身もいろいろ調べてみたのですが、知らなかった証明方法もあり、非常に驚きました!
やりようによっては、この他にも、証明方法がありそうな気もするので、良いものが見つけられ次第、随時更新していこうと思います。
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