実数の数列 \(\{{a}_{n}\}\) に対し、実数係数の \(n\) 次方程式
\[{\small{a}_{n}{x}^{n}+{a}_{n-1}{x}^{n-1}+\dots+{a}_{1}x+{a}_{0}=0}\]
を考える。この方程式が、複素数 \(\alpha\) を解に持つとき、\(\alpha\) の共役複素数 \(\bar{\alpha}\) も解に持つ。
今回は、共役複素数と方程式の解を解説していきます。
こちらの命題は、高校の数学の授業では、当然のこととして紹介されることが多いもののようです。
確かに、2次・3次方程式くらいまでであれば、解き方を追いかけてみれば当然な気がしなくもないのですが、この命題は一般に \(n\) 次の場合で成立するというのがスゴイところです。
難関大学の入試問題では、ダイレクトに \(n\) 次の場合の命題を証明させる問題が出題される可能性も十分にあり、1度は証明を経験しておきたいものとなります。
ぜひ、今回の解説を通じて、「確かに共役複素数も解になるよね!」と、納得した上で証明を身に着けていただければうれしいです!
解説
具体例
2次方程式 \(3{x}^{2}-x+2=0\)
まずは、2次方程式の場合を見てみましょう。こちらの方程式を解くと、
\[x={\small\frac{-(-1)\pm\sqrt{{(-1)}^{2}-4\cdot 3\cdot 2}}{2}}=\frac{1\pm\sqrt{11}i}{2}\]
となり、以下の2つを解に持つことがわかります。
- \(x=\frac{1+\sqrt{11}i}{2}\)
- その共役複素数 \(x=\frac{1-\sqrt{11}i}{2}\)
3次方程式 \({x}^{3}-3{x}^{2}+x+5=0\)
次に、3次方程式の場合を見てみます。\(f(x)={x}^{3}-3{x}^{2}+x+5\) と置くと、
\[\begin{alignat*}{3}
f(-1)&={(-1)}^{3}-3{(-1)}^{2}+(-1)+5 \\
&=-1-3-1+5=0
\end{alignat*}\]
となるため、因数定理より \(x+1\) を因数に持つことがわかり、実際に因数分解してみると、\({x}^{3}-3{x}^{2}+x+5=(x+1)({x}^{2}-4x+5)\) となります。(※)
そのため、与えられた方程式を解くと、\(x=-1,\)\({x}^{2}-4x+5=0\) となります。
この \({x}^{2}-4x+5=0\) を解くと、
\[x=-(-2)\pm\sqrt{{(-2)}^{2}-1\cdot 5}=2\pm i\]
となり、以下の2つを解に持つことがわかります。
- \(x=2+i\)
- その共役複素数 \(x=2-i\)
※3次方程式を解くため、式変形の途中で、「因数定理」「整式の割り算」を利用しています。こちらについては以下のページで解説していますので、不安が残る方は併せてご覧ください。
補題の証明(命題の証明に利用する武器)
それでは、早速、命題の証明を見ていきましょう!
・・・と行きたいところなのですが、命題の証明には3つほど武器(補題)が必要で、先に、簡単に、そちらを証明します。
補題① \(\overline{r}=r\ (r\) は実数\()\)
<証明>
\(r=r+0\cdot i\) に対して、\(\overline{r}=r-0\cdot i\) なので、
\(\overline{r}=r-0\cdot i=r+0\cdot i=r\) となり、示されました。
(証明終了)
補題② \(\overline{\alpha+\beta}=\overline{\alpha}+\overline{\beta}\)
<証明>
実数 \(a,\)\(b,\)\(c,\)\(d\) に対して、\(\alpha=a+bi,\)\(\beta=c+di\) とおくと、
\[\begin{alignat*}{3}
\overline{\alpha+\beta}&=\overline{(a+bi)+(c+di)} \\
&=\overline{(a+c)+(b+d)i} \\
&=(a+c)-(b+d)i\quad(\because\ 共役複素数の定義) \\
&=(a-bi)+(c-di) \\
&=\overline{\alpha}+\overline{\beta}\quad(\because\ 共役複素数の定義)
\end{alignat*}\]
となり、示されました。
(証明終了)
補題③ \(\overline{\alpha\cdot\beta}=\overline{\alpha}\cdot\overline{\beta}\)
<証明>
実数 \(a,\)\(b,\)\(c,\)\(d\) に対して、\(\alpha=a+bi,\)\(\beta=c+di\) とおくと、
\[\begin{alignat*}{3}
\overline{\alpha\cdot\beta}&=\overline{(a+bi)\cdot(c+di)} \\
&=\overline{(ac-bd)+(ad+bc)i} \\
&=(ac-bd)-(ad+bc)i\quad(\because\ 共役複素数の定義) \\
&=(a-bi)(c-di) \\
&=\overline{\alpha}\cdot\overline{\beta}\quad(\because\ 共役複素数の定義)
\end{alignat*}\]
となり、示されました。
(証明終了)
命題の証明
お待たせしました!
ようやく準備が整いましたので、これらの補題を利用して、本丸の命題を証明していきましょう!
<命題>
実数の数列 \(\{{a}_{n}\}\) に対し、実数係数の \(n\) 次方程式
\[{\small{a}_{n}{x}^{n}+{a}_{n-1}{x}^{n-1}+\dots+{a}_{1}x+{a}_{0}=0}\]
を考える。この方程式が、複素数 \(\alpha\) を解に持つとき、\(\alpha\) の共役複素数 \(\bar{\alpha}\) も解に持つ。
<証明>
複素数 \(\alpha\) を解に持つことから、与えられた方程式に \(x=\alpha\) を代入して、
\[\sum_{k=0}^{n}{a}_{k}{\alpha}^{k}=0\]
と書けます。この両辺に共役複素数をとると、
\[\begin{alignat*}{3}
&\overline{\sum_{k=0}^{n}{a}_{k}{\alpha}^{k}}=\overline{0} \\
\stackrel{\mathrm{(※1)}}{\Longleftrightarrow}\ &\sum_{k=0}^{n}\overline{{a}_{k}{\alpha}^{k}}=0 \\
\stackrel{\mathrm{(※2)}}{\Longleftrightarrow}\ &\sum_{k=0}^{n}\overline{{a}_{k}}\cdot\overline{{\alpha}^{k}}=0 \\
\stackrel{\mathrm{(※3)}}{\Longleftrightarrow}\ &\sum_{k=0}^{n}{a}_{k}\cdot\overline{{\alpha}^{k}}=0 \\
\stackrel{\mathrm{(※4)}}{\Longleftrightarrow}\ &\sum_{k=0}^{n}{a}_{k}\cdot{(\overline{\alpha})}^{k}=0 \\
\end{alignat*}\]
(※1) 左辺に補題②、右辺に補題①を適用
(※2) 左辺に補題③を適用
(※3) 左辺に補題①を適用
(※4) 左辺に補題③を適用
- 補題① \(\overline{r}=r\ (r\) は実数\()\)
- 補題② \(\overline{\alpha+\beta}=\overline{\alpha}+\overline{\beta}\)
- 補題③ \(\overline{\alpha\cdot\beta}=\overline{\alpha}\cdot\overline{\beta}\)
最終的に得られた \(\sum\limits_{k=0}^{n}{a}_{k}\cdot{(\overline{\alpha})}^{k}=0\) は、複素数 \(\alpha\) の共役複素数 \(\bar{\alpha}\) も与えられた方程式の解であることを表しているため、命題は示されました。
(証明終了)
おわりに
今回は、共役複素数と方程式の解として、方程式の解に複素数を含む場合は、必ず共役複素数も解になることを証明しました。
私がこの事実を初めて知ったときは、数学って不思議だなーと思った記憶があります。
というのも、一般に \(n\) 次の方程式は、\(n\geqq 5\) の場合は解の公式が存在しないことが証明されています。そのため、どれだけがんばっても解が求められない、ということはよくあります。(というよりも、解けないことの方がほとんどです。)
それなのに、解の1つとして複素数を見つけさえすれば、自動的にその共役複素数も解になることだけはわかってしまう、というのは、なんとも不思議な感覚になりませんか??
もし、今回の解説を通じて、その不思議さが少しでも共有できていたら、とてもうれしいです!
ちなみに、、、
具体例として、2次・3次方程式を見たけど、「1次方程式の場合はどうなの?」と思われた方。なかなか鋭いです!
実は、今回の命題は、1次方程式の場合は、議論の対象外になります。その理由は、「実数係数」という部分にあります。
実数係数の1次方程式というと、例えば、\(3x+1=0,\)\(\sqrt{3}x-\sqrt{2}=0\) のようなものになりますが、係数を実数の範囲でどれだけいじっても、1次方程式の解 \(x\) に複素数が入ることはありません。
これは、直感的にはそうなりそう、と思っていただけると思いますし、簡単に証明できます。
実数係数の1次方程式 \(ax+b=0\ (a\ne 0)\) の解は、必ず実数となる(複素数とならない)
<証明>
「解 \(x\) は複素数である」と仮定し、その解を \(x=c+di\ (c,\)\(d\) は実数,\(d\ne 0)\) とします。
このとき、与えられた方程式に、\(x=c+di\) を代入すると、
\[ax+b=a\cdot(c+di)+b=(ac+b)+(ad)i=0\]
今、\(a,\)\(b,\)\(c,\)\(d\) は、全て実数であり、この等式が成立するためには、
- \(ac+b=0\)・・・①
- \(ad=0\)・・・②
がいずれも成り立っている必要があるところ、\(a\ne 0\) かつ \(d\ne 0\) であり、②は成り立ちえません。よって矛盾。
したがって、「解 \(x\) は複素数である」という仮定は否定され、実数係数の1次方程式 \(ax+b=0\ (a\ne 0)\) の解は、必ず実数となる(複素数とならない)ことが証明されました。
(証明終了)
実数の数列 \(\{{a}_{n}\}\) に対し、実数係数の \(n\) 次方程式
\[{\small{a}_{n}{x}^{n}+{a}_{n-1}{x}^{n-1}+\dots+{a}_{1}x+{a}_{0}=0}\]
を考える。この方程式が、複素数 \(\alpha\) を解に持つとき、\(\alpha\) の共役複素数 \(\bar{\alpha}\) も解に持つ。
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